
新年一作目はやはり新作を出したいと思って、描いたのが今回の画である。
昨年の夏に、築地と勝ち鬨の長屋、バラックを見に行ったのだが、その勝ち鬨の長屋群が、ついにごっそり今月末から解体されるという話を聞いて、12月に再訪したのだった。
勝どき駅からすぐの場所に、かなりまとまった数の長屋が残っていたが、もう住民のかたの転居が随分済んでいて、普段から静かな一角が、もぬけの殻の寂しさまで感じさせるような翳りを帯びていた。
モチーフにしたのは、角に建っていた割合大きな理髪店の側面である。画面右側からが本当の正面なのだが、およそ絵的な感じはなく、私のようなとち狂った人間でなければ描くなんてことはまずないような気がするすがれぶり。側面は実際はもっと変化のないグレーに、錆の入った総トタン張り。広告や政治家ポスターも所構わず貼ってある。しかし描いているうちにやはりこの建物に愛嬌や味わいを感じて、画もそんなふうになっていく。
もう暫くで、こうしたなつかしい翳りを孕んだ町並はかき消えて、あとにはてきれきと光る高層マンションが聳え立つのだそうだ。
[トタン理髪店] 2007 F3
麻紙ボードにジェッソ、アクリル、パステル、色鉛筆
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