
昼間何でもなかった通りに灯りが灯ると、また別の世界が拡がってみえたりすることがあるだろう。踏み入れたことのない店にふといざなわれたり、みすぼらしい軒にほっと灯る玄関灯に、言いようのない安らぎを感じたりすることもある筈だ。
梅雨前のこのわずかな緑匂う季節、暮れどきは空気も何故かみずみずしい気がする。そして都会の真ん中でも、まだひっそりとしたなつかしい闇を残す一角があり、過去の幻影のようなそんな箇所に出会うと、心にあたたかい水のようなものが満ちてくる。
遠くはない日に一瞬にして失くなってしまうであろう建物たち、否もしかしたら今見ているのは遠い昔の幻なのかもしれないけれど、私はいつまでもその姿を心にしまい、いつか自分の四角い画面の中に、はかなくうつくしく描きあげるだけだ。
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