
私が生まれ育った横浜の町は、坂と崖と谷間の町で、何処へ行くにも階段を必ず上り下りする毎日だった。夏などはこんな地形を恨んだものだったが、階段をのぼりきると急に視界がひらけ、風が立ち、汗を吹き飛ばすような気分にしてくれることもあった。夜など、ぽっかり月が上がっているのが不意に見えたり。そんな意味では、どんな地形の町に育つかは人の心の有り様にも影響するのだと思う。
階段を上りきったところに必ず車止めがあり、裸電球に照らされていることもあった。そんな何でもない日常の風景が、ときどき画のモチーフとなって、紙の上にたち現れる。