
陋巷画日記、<墨東篇>連続でいきます。
十代の頃から永井荷風の「墨東綺譚(正しくはボクの字はさんずいが付く)」が好きだった、カワリモノの私であるが、前回の鳩の町のように纏綿と花街の情緒の遺る雰囲気だけが墨東の魅力であるとは、到底言えない風景に今回も幾度も出くわした。
そのひとつが今回の町工場の風景だ。
鳩の町から玉ノ井に向かう頃になったら陽ざしがすっかり翳り、辺りは暗くなる一方。墨田のたぬき湯という銭湯を目指していたら、この工場が忽と薄暗がりに現れた。
かたちは非常にシンプルで、全面トタンの継ぎ接ぎ(ほぼ8割はブルー)。そしてところどころひび割れた窓ガラス。そこからは中の電球の光も漏れる。そしてその屋根の頂には、何とも力強い太い煙突が。思わず言葉をなくすほど心打たれてしまった。
このあたりには中小の工場がひしめき、寡黙な職人たちが暗い中で黙々と働く姿が垣間見える。そうした姿は何故かとても力強いのだ。声なき労働歌を聴く想いがする。
そんな骨太の叙情を、この町は低音で奏で続けている。
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