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N的画譚

N町在住、陋巷の名も無き建築物を描くneonによる、日日の作画帖です。
浮地 玉ノ井



向島界隈の旧町名が残っている地図を見ると、鳩の町のやや南に「向島請地町(うけちちょう)」という一角があり、その地名が気になっていた。もしかして「身請」から来ているのか?などと思ったりしていたのだが、地元の方にきいてもはて・・・とめぼしい解答は無かった。

家にある荷風の著作を読み返し、そして古本の木村荘八(墨東綺譚の挿画を描いた画家)著、「女性三代」という随筆を読み返していたら、その答えが出ていたのである。

それによると「請地」とは「浮地」のことで、つまりは埋め立て地という意味合いなのだそうだ。特にこの玉ノ井辺りもやはりその「浮地」であり、塵芥の上に無秩序に家を建てたらしい。その地盤の悪さは言うに及ばず、墨東綺譚に出てくるあの溝川はすぐ水が溢れてしまうのだった。墨東綺譚本文にも、「ここはもともと埋地で、碌に地揚げもしないんだから」と、お雪の抱え主が語る場面が出てくる。

今現在はそうした土地の持つ翳りや無気味さは殆ど感じられない町と化してはいるが、やはり歩けばその路地の複雑さには迷ってしまう。そして知らぬ間に、余り陽の当たらぬ細い地べたの道や、昭和の匂いのする平屋の家並みの前に出たり、装飾のある窓ガラスに出会ったりするのである。
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