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N的画譚

N町在住、陋巷の名も無き建築物を描くneonによる、日日の作画帖です。
揺るがない
鶴見川畔306


職人、が好きである。
そして職人の人生というものが好きである。というより、もうそれは殆ど届かない憧れかもしれない。

毎日毎日寡黙に同じ事を繰り返している。
かのようにも見える。がしかし、職人にとっては同じではない筈だ。
毎日の作業のなかに精進の心があり、研鑽があり、僅かずつでもそこに深化があり、発見すらあるのだと思う。つまり、日々新しく向き合っているのだと思う。それを喜びとしている。でなければ続かない。

手を使う仕事というのは、一見そうでもないようで実は、精神的な世界と深く関わっていると感じる。
老練な職人は頭の中で考えるより感覚で動く。
感覚を磨くことが全てであるのかもしれない。

葛藤や失敗も己をみつめることで収め、そうやって日々孤と向き合い、個を超えてゆく。
手の中から生まれてくるものは、世の流れや風評には縁がない。そして揺るがない。
簡素で地味で、淡々とした人生。それで好いと思っている。
それが好いと思っている。(勿論みんなが皆ではないだろうけどね)

坂口安吾が「文を書くなら、その一文を命と引き替えても書きたいか」というような事をどこかに書いていたが、まさかそんなところまでは行かなくとも、覚悟のようなもの、どうしてもどうしても作りたいかどうかという心、そう聞かれたときに「どうしても作りたい、ただただ表現したい」という心、
それを持っているかどうか。それを為すために、その創意工夫のために一生をついやすかどうか。

・・・でも、さういふものに、ワタシもなりたい。(無理だけどね)

(*画は過去の筆すさび。)
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注文画を描く
sakuhin 001a sakuhin 004a 注文の画305


大学時代の友人から、先日久々にメールが来た。
何かと思ったら、嘗て居た会社の上司の方からneonの画を欲しいと言われているがどうしたら好いかという内容だった。その友人とは96年に二人展をやったのだが、その折に見た私の画のことを覚えていたらしい。もう10年以上経っているのに奇特なことよ。
それでちょうどやっていたnidoの展示を見て頂いた上で、色々ご希望をきいて新たに描きおろすことになったのであった。

注文内容は、大きさはF3くらい、リビングに飾るので明るい感じ。nidoにあったなかでは、ピンク色っぽいバックのものを指して、こんなふうな、と仰有った。
あまり口数の多い方ではなかったので、私もそれ以上は特に詳しく伺わなかったが、なんとなくお話しているとその人の好みのようなものはうっすら解る。

本の表紙や挿画などは描いても、注文で新たにタブローを描く、ということはあまりない。
でも晴れがましくもリビングに飾っていただくのであるから、喜んでいただけるようなものを描きたい。
描く動機は外発的でも、画を描くのは内発的なところから出発しないと空っぽな画になってしまう。そこでこのところ溜まっていた描きかけアイデアスケッチの中から、取捨選択しながらイメージをつくっていく。中野にあったボロ店舗の面白い形を自分なりに変えていくうち、あ、こんなふうに行ってみようと固まってきた。

形が出来上がると下塗りしながら色を塗り重ねていく。一番愉しい作業。
色は、描きながら決まってゆく。
画像はその様子である。上2枚は途中の写真。下は完成品。これだけスキャンをかけた。
たまにはこんな制作途中のをアップしてみるのも、御覧になるのは面白いのではなかろうか?

さて、あとは額を頼んで、出来上がったら晴れてお嫁入りとなる予定である。


修復された櫛
bekkou 004a bekkou 006a


家の近所に小さな骨董屋がつい最近できた。
近所だがあまり行かない通りにあって、先日バスに乗っていて初めてあれっと気づいたのである。

偶々先日通りがかり、時間もあったのでちょいと覗いてみる。
食器類が多いが玉石混淆といった雰囲気。名品ばかりを置いて澄ましている感じの店ではない。
まだ値札の付いていないものもかなりある。他に客も来ないので和硝子など手にとって見ていたのだが、ちょっと目立たないところにこの櫛があった。

持ってみると意外に重みがあり、本物の鼈甲に意匠を施したものだと素人目にも解る。そのデザインの華やかで愛らしいこと。螺鈿の牡丹の傍らに鳥が羽を拡げ、小花が周りを飾る。その小花も珊瑚やら金やら螺鈿だ。右は櫛の裏側。ここにも小花の柄が施されている。その細かな意匠には驚くばかり。見とれていると店主のオジサンが、実は手に入れたとき、この櫛は真っ二つに割れていたのだと教えてくれる。なるほど牡丹の花びらの際のところに、割れた後がはっきり見える。

店主さんはもともと絵画の修復師で、この櫛も自分が割れていたのを接着剤で付けて修復したのだそうだ。かつての日本画の良き時代を懐かしそうに話す。小野竹喬、伊東深水。竹喬好いですよねワタシもちょっと日本画をやったことがあるんですよと言うと、相好を崩して、気に入ったならそれ持って行きなさいよと言う。
ええっ、それはできませんよ。ちなみにほんとは値段はおいくらなんですか?
言われた値段はとても安くて、逆に躊躇したら、それでも高いとワタシが思ったと見て、
「またたまに来て、ちょっとずつ払えば好いよ。引越したら、忘れてもいいよ」。
いやいや引っ越しませんけどね。

それで、信じられないくらい安い内金?を払って、この櫛が手元にやってきたのだった。
割れた跡や、ところどころ螺鈿が剥落した箇所はあるものの、実際髪に挿すと驚くほど華やかで、いったいどんな人の髪を飾ったのだろうと想う。店主のオジサンの気持ちも有り難く、大切に他の鼈甲ものと一緒に、いつまでもとっておきたいと思う。

この店主さんについては、話しているうちに世間は狭いなと思うような面白い逸話があったのだけれど、そのお話はいつかもっと文章が巧くなったら(ならないけどね)書いてみたいような話であった。
東上野のツートン長屋
ツートン長屋304


町歩き愛好者にとって、以外に盲点なのが自分の住んでいる町の付近、ということが往々にしてあったりする。ワタシにしても、少し北の向島や京島などへ行くときは、少しばかり余所者散歩者の気分を携えて行くことが出来るのであるが、上野などは以外に近すぎてそうした余裕を持った目で見ることが少なかった。

だが、時々利用する台東区の循環バス「めぐりん」に乗ったりすると、知らなかった道を随分通ったりするせいで、窓外の景色におや・・・と気づかされたりするのだ。
そんなこんなで、昨年東上野一帯を歩いてみたのだが、思わぬ拾いもの物件?がかなりあって愉しかった。そんなひとつがこの二軒長屋。

屋根の高さももぴったり同じにくっついているのだが、ブルーと薄いクリーム色の2色にきっちり分かれていてチャーミング。トタンもわりと綺麗だったから、改装しつつ永らえてきた感じがして微笑ましい。もっとN的に抽象化して描いてみたいような逸品でありました。
消えゆく家並
神田 消えゆく家並303


久しぶりの陋巷画日記です。

ちょっと買い物があり神田に出かけた先日、周辺をぶらっとしてみたのですが、相変わらず古い建物は加速度的に無くなっている感じでした。解体途中や既に更地となって、おそらくは高層物件ができるのを待っている所が目立ちます。
一口に神田と言ってもかなり広い地域で、神田という地名を冠した、神田紺屋町、神田北乗物町、神田鍛冶町、神田美倉町、神田美土代町、神田錦町など町名を見ているだけでも愉しいのですが、今はその名前のイメージは喚起できないところがほとんど。ちょっと寂しい気がします。

それでもふっと小路を曲がると、こんな感じの家並に出会うこともあります。
でも此処も、ちょうど隣が更地になったためこんな風に見渡すことができたという一角。
左端はパン屋さんだったようですが、今はシャッターが固く閉じている様子でした。

それでも昔懐かしい神田に会いたいと言う方は、ちょうど来週から素敵な展覧があります。言わずもがなのオーライタローさんの個展@ギャラリーツープラス。此処へ行けば、思わず微笑んでしまうような、なつかしくて味わいのある神田の建物に会うことが出来ます。是非足を運んでみて下さい。勿論ワタシも参ります~。詳しくはこちらをクリック
巣立ってゆく
nido2008layout 053a


連休も終わり、今日は晴ればれとした5月の空。5月の香りがします。

nidoとのコラボ展、無事昨夜を以て終了致しました。
皆様本当にありがとうございました。

根津神社のつつじ祭りと、日暮里舎人ライナーの開通と、の相乗効果もあったのか、谷中周辺は連日大賑わい。一年分の観光客が訪れたのではというくらいの人波でした。

ちいさな路地をはいったところにあるnidoも、ほとんど切れ目なくお客さんが訪れ、ほんとうに沢山の方に作品を御覧戴くことができました。おかげさまで今回出品したコラボ作品は、昨夜閉店時までにほぼすべて完売し、画像のように可愛くパッケージングされて、巣立っていきました。。。そして「nido」の店名はスペイン語で「巣」という意味。ほんとにその通りです。
よーく御覧下さい、箱に貼られている金のシールまで、nidoお手製の今回のコラボ展オリジナルのものなのです!ほんとにどうもありがとう。

今回は独りでやる個展とはまた違った愉しさや発見があり、とても充実した時間を過ごすことができました。展示の間にも、nidoのお二人、矢口恭子さんと真野江利子さんは受注作品を制作し、それを傍らで眺めるのもとても好い時間でした。やっぱり作り手の見えるお店というのは魅力があるものです。

そしてこの谷中という町。
nidoはわりと遅くまでやっていることもあり、ご近所ショップのオーナーさんたちがそれぞれのお店を閉めた後など「お~い」とやって来ます。みなさんそれぞれ個性的な、素敵なお店を持っている方達で、お互いショップカードを置いたりして交流があり、仲良しなのも何か谷中らしくて好い感じでした。「ここでずっとやり続けたい」というnidoのふたり。ほんとにずっとずっとそうしていて欲しいと、ファンの一人であるワタシは願ってやみません。

今回とても好評を戴いたので、このコラボはどうやら定期的になりそうな感じです。
私たちの心をこめた小さな作品が、巣立った先で少しでも心和ませる空間づくりのお役に立ってくれれば・・・本当にシアワセです。
ありがとうございました!
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