

家の近所に小さな骨董屋がつい最近できた。
近所だがあまり行かない通りにあって、先日バスに乗っていて初めてあれっと気づいたのである。
偶々先日通りがかり、時間もあったのでちょいと覗いてみる。
食器類が多いが玉石混淆といった雰囲気。名品ばかりを置いて澄ましている感じの店ではない。
まだ値札の付いていないものもかなりある。他に客も来ないので和硝子など手にとって見ていたのだが、ちょっと目立たないところにこの櫛があった。
持ってみると意外に重みがあり、本物の鼈甲に意匠を施したものだと素人目にも解る。そのデザインの華やかで愛らしいこと。螺鈿の牡丹の傍らに鳥が羽を拡げ、小花が周りを飾る。その小花も珊瑚やら金やら螺鈿だ。右は櫛の裏側。ここにも小花の柄が施されている。その細かな意匠には驚くばかり。見とれていると店主のオジサンが、実は手に入れたとき、この櫛は真っ二つに割れていたのだと教えてくれる。なるほど牡丹の花びらの際のところに、割れた後がはっきり見える。
店主さんはもともと絵画の修復師で、この櫛も自分が割れていたのを接着剤で付けて修復したのだそうだ。かつての日本画の良き時代を懐かしそうに話す。小野竹喬、伊東深水。竹喬好いですよねワタシもちょっと日本画をやったことがあるんですよと言うと、相好を崩して、気に入ったならそれ持って行きなさいよと言う。
ええっ、それはできませんよ。ちなみにほんとは値段はおいくらなんですか?
言われた値段はとても安くて、逆に躊躇したら、それでも高いとワタシが思ったと見て、
「またたまに来て、ちょっとずつ払えば好いよ。引越したら、忘れてもいいよ」。
いやいや引っ越しませんけどね。
それで、信じられないくらい安い内金?を払って、この櫛が手元にやってきたのだった。
割れた跡や、ところどころ螺鈿が剥落した箇所はあるものの、実際髪に挿すと驚くほど華やかで、いったいどんな人の髪を飾ったのだろうと想う。店主のオジサンの気持ちも有り難く、大切に他の鼈甲ものと一緒に、いつまでもとっておきたいと思う。
この店主さんについては、話しているうちに世間は狭いなと思うような面白い逸話があったのだけれど、そのお話はいつかもっと文章が巧くなったら(ならないけどね)書いてみたいような話であった。
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