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N的画譚

N町在住、陋巷の名も無き建築物を描くneonによる、日日の作画帖です。
廂合
しゃあひ321


木村荘八の「東京今昔帖」(昭29)を読んでいるが、趣深い内容である。
所々入っている挿画は言わずもがな。エッセイ集であるが、東京のいまむかしの建物、風俗、気質、文化といったものの変遷を語って読み飽きない。
珍しいことに、巻頭に幾葉かの町の写真がある。その説明のなかに「廂合」という言葉があり、(しやあひ)とあった。

初めて出会う言葉だったが、字面で意味はわかる。添えられた写真は湯島天神下付近の家々。木造の二階家の張り出した物干し場が隣の家のそれと、まさにくっつき合うように(否 本当にくっついているようにも見える)造られている。向こう三軒両隣とはよく言ったものだ。まさにそんな、隣近所との接触の多い、互いに助け合っていたであろう暮らしが目に浮かぶ。勿論好いことだけではなかったろうが、今よりはずっとそうしたものが緊密だった時代。

泉鏡花の作品中ではこの言葉は「ひあはひ」というルビが振られているようだが、どちらの読み方にせよ既に現代では死語である。

ワタシの乏しい町歩きのなかで、かすかにこの言葉を喚起させるにもっとも近いのは、今は無き勝鬨の長屋群かもしれない。木村荘八の示したものとは、厳密には異なるかもしれないが、庇や軒の並びの近さは此処が一番(見た中では)接近していた。
で、無くなってしまったこの言葉とこの町のたたずまいを想いながら、画にしてみた。
幻と化した風景には、合掌するしかできないのだけれど。

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