fc2ブログ

N的画譚

N町在住、陋巷の名も無き建築物を描くneonによる、日日の作画帖です。
細雨の陋巷
雨の陋巷2341








或る日の事でございます。
蒸し暑い暮れ方に、私の粗末な部屋の扉を叩いた者がおりました。
扉を開けてみると、そこには見知らぬ白い鬚の痩せた老人が立っていました。

「アナタは陋巷を描いている絵描きだと聞いたが、一枚雨の陋巷を描いて貰えんじゃろうか」
「わかりました・・・」

しかし、簡単に引き受けたものの、一体何処の町をどう描いたらよいか・・・
筆は進まず、私はふらふらと足の向くままあちこちを徘徊し、疲れ果てて気づいてみると、
あたりは薄暗く今にも雨の降り出しそうな気配。ああもう立ち去らなければ、
・・・と、忽然と私の眼の前に、低い軒の翳った建物が現れたのです。
よく見ればぞっとするほどに荒れ果て、屋根も抜け落ちて、草木が内部まで浸食し、それでもてらてらと錆びたトタンの壁ばかりが光り、そして異様なまでの静けさが漂っているのです。

その、暗さの極みのような建物に、何故か心打たれ澄む想いになった私は
必死で素描を始め、何とか描き終えた頃には辺りはとっぷりと暮れ、ぽつぽつと細い雨が降り出しました。
そのあとどうやって家に帰り着いたのか、おかしなことにほとんど記憶がないのです。
ですが部屋に戻った私はその素描をもとに、老人の所望する雨の画を描きあげたのでした。
しかしその後、いくら待っても老人は現れなかったのです。

私の手元には、渡せないままの何処ぞの場末の、あの雨の画が今でもずっと残してあるのです。


(物語はふぃくしょんです。たは~*)
(帰った記憶がないのは、帰りに飲んだくれたからだとか、老人が来ないのは死んじゃったんでしょとかそういうツッコミは、・・・あ、入れてもいいすよ~)
スポンサーサイト



Designed by aykm.