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N的画譚

N町在住、陋巷の名も無き建築物を描くneonによる、日日の作画帖です。
追憶の鳥
追憶の鳥377












少しく遠出して歩いてみた街は荒れ果てて、冬の西日が海風に煽られて弱々しく射し込んでいた。
崖が多いから階段が至る所にあるのだが、その石段のすり減った丸みだけはひっそりとやさしい。

嘗て賑わった巨大な建物がまるごと廃墟となり、硝子張りのエントランスからがらんどうの室内が見え、その向こうに凪いだ冬の海さえ見おろせる。暮れてくれば明るいネオンの付くはずの歓楽街も、落ちそうな看板や切れた電線がぶらぶら揺れて、錆のひどく出た窓辺は、その錆色だけが華々しい。

だがそんな中をのぼり下りしながら、閑まりかえったこの街の枯れきった匂いを肌で感じていくのは厭なことではない。寧ろ少しずつ心のなかに弱くはあるがゆっくりとぼんやりと、光が射すような気になるのは何故なのだろう。自分の影法師がながくながく曳かれてみえるのが何だか可笑しいことのように思え、寂しさや侘びしさも忘れ、そして何処からかやってきて建物の高みに止まり、親しげに私を見下ろして啼く追憶の鳥の声を夢のように聞く。
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