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N的画譚

N町在住、陋巷の名も無き建築物を描くneonによる、日日の作画帖です。
『玉の井』色街の社会と暮らし
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驚くべき労作の著書が刊行された。
日比恆明著、自由国民社刊『玉の井』である。

「赤線跡」シリーズ等でお世話になった自由国民社の、名編集長竹内氏が拙個展に来て下さってこの情報を頂いたのだが、実際この分厚い著書を手にしてめくった途端、鳥肌が立つような想いであった。

永井荷風の『濹東綺譚』の舞台として知られる玉の井であるが、知られている割には、これまでその赤線の町としての経歴の詳細を実証的に著述した書籍というのは、無いに等しかった。それが、今回この著書では実に詳細に調査し検証され、荷風ファンは勿論、玉の井に興味を覚える人にとっては、必読の著書である。

特筆すべきは、著者の歳月をかけた聞き書きと、戦前戦後のカフェー街の地図、そして店の内部の間取り図。こうした町の実地踏査には、聞き書きの重要性は大きい。だが、これは途方もなく骨の折れる、時間のかかる作業だ。しかし著者は丹念に丹念にそれを繰り返し、またその中からきちんと裏付けのとれる話だけを注意深く選んで記録する。また、これまで幾度か探査されながらも不完全で明確でなかったカフェー街の地図を、非常に詳細に明確な形で提示してある。私などは、もうこの地図だけでも感服してやまないのだが、今まで輪郭のもやもやしていた様々な事項が、判り易く丁寧に述べられており、膨大な資料とその検証・分析に基づく内容は、定価2800円では安すぎるとも思わせる貴重なものであると言える。

昨今は赤線跡歩きをする人も増えたが、是非そうした人にはこの著書をまず読んでほしいと思う。そして在る意味大変デリケートな来歴を持つこうした町の、明暗(極楽と地獄・・・)をふまえた上で、静かに歩いてほしいと思う。既にこうした町は現代からほぼ姿を消しつつあるのだが、こうした稀有にして貴重なルポルタージュは、今後益々その存在の意味を大きくしていくだろうと思われる。
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