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N的画譚

N町在住、陋巷の名も無き建築物を描くneonによる、日日の作画帖です。
D鉄工所の想い出













私の故郷である横浜の、Y駅のすぐ脇に小さな鉄工所があった。

ほぼ毎日のようにそこを通っていたからその光景は余りに普通で、長いこと、通り過ぎる月並みな風景にしか過ぎなかった。ちょうど鉄道が通るトンネルの脇にあり、その鉄工所敷地内に入らんばかりの横の細道を通ると、少し早道になる。ちょうどトンネルをまたいで坂道を上って行った先に、私の実家があったのだ。

故郷を離れて何年もして、ふとその光景を想い出すことがあった。

いつも赤錆色の鉄柱や鉄板が沢山置かれて、何かしらを加工する大きい音がしていた。
工員も5~6人はいたような気がする。
どうなっているだろうか。

写真を撮っておこうと思いながら、やっと撮れたのはそれから随分経ってからだ。
建物は辛うじて残っていたが、既に廃業したらしくすべて戸は閉じられて、敷地内には鉄板の一枚も無く
ひっそり閑として眠るかのようだった。
閉め切られた錆トタン板が紅くて美しかった。

その後また何年も此処を訪れていないが、おそらくもう既に無くなっているだろう。
故あって故郷を失ってしまったとも言える自分には、この鉄工所の写真は一種の形見のようでもある。
それを何とか、また一味違った感覚で画面の中に昇華してみたいと考えている。
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