fc2ブログ

N的画譚

N町在住、陋巷の名も無き建築物を描くneonによる、日日の作画帖です。
京都断章*2


1988年盛夏、ついに京都のHという駅に降り立った。<そこ>は駅に着く寸前にすぐわかった。ややくぼんだ土地に一目でそれと分かる町並が見えたのである。
目の前に現れたその町は、本当に言葉を失うほど非日常のたたずまいを遺していた。どの建物も意匠を凝らした和洋折衷建築で、それが真夏の強い陽ざしの中でしんと静まりかえり、濃い影を作り、そして廃れつつあった。保存とか修復とかいう言葉は、この町には無縁のもののようだった。やはり旧遊廓という、特殊でナイーブな意味を持つからなのだろう。そしてほとんどの建物は、まだ住宅として使われている様子だった。
その中にひとつに、特に忘れがたい建物があった。真鍮の手摺りを持つ扉の横に、タイルとステンドガラスに彩られた窓があり、その絵柄は鳥なのだ。鸚鵡か鸚哥と思われるその鳥に、「籠の鳥」が想起されると同時に、この町自体がこの鳥のように、儚い夢を見ながら年老いているように想えた。
それまでモチーフが絞られていなかった私の画は、以後決定づけられたような気がしたのである。まあ、大袈裟な言い方ではあるけれど。それほど、この町との出会いは私にとって大きな意味をもたらしたのは事実である。
そして私はこの鳥のある窓の建物を、幾度も幾度も、色々な方法で描いた。アップした画は、そのなかで最も大きく(F30)、もっとも労作?かと思われる。(2000年作)。これは二つの別々の建物をくっつけている。画の善し悪しは別にして、とにかくここを描くとき、どうしても私は軽くは扱えなかった。重く、暗く、しかし美しくはかなく。だから今でも、こうした遊廓街をあるくときは、深い敬意と愛惜とを捧げながら歩くのだ。
Comment
≪この記事へのコメント≫
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2006/04/01(土) 00:30:59 | | #[ 編集]
ありがとうございます
>妾番長さん
そこまで言って頂き、光栄の至りです。が、あまりに大きくクライので、カフェ展示は無理ですねえ。よろしければ近所で(曙ハウス跡地ででも?)お見せしましょっか?先ずは探して見なきゃいけませんな。。。
2006/03/31(金) 14:35:42 | URL | neon #Fos2lKYE[ 編集]
是非倉庫からひっぱり出して展示会に出してくださいよぉ。
2006/03/31(金) 13:11:38 | URL | 妾番長 #-[ 編集]
F30
>GG-1さん
こちらにもコメント頂きありがとうございます。そうなんです、結構大きいんですが、どこへやったか、たぶん狭い倉庫に入れぱなしじゃないかな。。。根津に移るとき、かなり過去作を処分したんですよ。これは捨ててないと思ったんですが、案外昔の作品に未練を持たないのです。
2006/03/30(木) 10:16:50 | URL | neon #Fos2lKYE[ 編集]
F30ってどれ位なのだろうと検索してみたら1メートル近いじゃ有りませんか
実物(画の方です)を見てみたいですねえ
この建物に真正面から対峙されましたね
2006/03/29(水) 01:17:00 | URL | GG-1 #-[ 編集]
いえいえ
>妾番長さん
あの時はすごく嬉しかったんですよ。それに妾番長さんのお写真だって、厚かましいのを承知で言えば「重く、暗く、しかし美しくはかなく」の世界ではないですか。この画を気に入って下さった方は、きっと多かれ少なかれそういう世界の扉を開けている人なのではないかと。・・・あ、でもお仕事して下さいね。
2006/03/23(木) 19:20:20 | URL | neon #Fos2lKYE[ 編集]
コメントぐらいでご恩を感じないでくださいw
でも、この絵ほんとイイです。目に入るとじーんとしてボーっとして仕事になりません。
「重く、暗く、しかし美しくはかなく。」って正にそういう感じです。すごいなー。
2006/03/23(木) 16:25:01 | URL | 妾番長 #-[ 編集]
お待ちしてました!
>妾番長さん
もう、今か今かとお越しをお待ちしてましたよ~。ありがとうございます!妾番長さんには、masaさんが絵葉書をアップして下さったときにコメント下さったご恩を忘れておりませんし、この度は壁紙にして下さったんですか?いやはや何とも嬉しいかぎりです。この画は重いからあまりコメントないかなと思っていたのですが、お目にとまって光栄の至りです。また是非お越し下さいね~。
2006/03/23(木) 15:27:37 | URL | neon #Fos2lKYE[ 編集]
ありがとうございます
>greenagainさん
おいで頂きましてありがとうございます。真摯というより、まあとにかく描くのが好きなんでしょうね。それだけで、今までやってきたっていう感じです。是非お散歩がてら展示を見においで下さい。うーん、搬入は私も手際よくやりたいんですがね。。。
2006/03/23(木) 15:21:30 | URL | neon #Fos2lKYE[ 編集]
こんにちわ。お約束どおりやってきました。
この絵がものっそい気に入りました。素敵です!
早速壁紙にしています。
2006/03/23(木) 12:48:43 | URL | 妾番長 #-[ 編集]
はじめまして。
GG-1さんの所から参りました。
繊細な絵を描かれるのですね。
neonさんの制作へ向かわれる真摯な態度に感銘しました。
五月の個展、スケジュールの都合がつきましたら伺いたいです。
搬入まで、緊張した毎日が暫く続くかと思いますが、お身体お大事にどうぞ。
2006/03/23(木) 11:33:41 | URL | greenagain #-[ 編集]
ブラック
>m-louisさん
コメントありがとうございます。ブラックの鳥、ですか。。どうも洋モノ全般に疎くて(汗)、今度よく見てみます。
橋本は、今現在どれほどのものが残っているのかあやしいのですが、それでも断片だけでも見たいのです。
2006/03/23(木) 09:15:13 | URL | neon #Fos2lKYE[ 編集]
まずテクスト読む前に拡大した絵を見まして、これはこの建物の中に neonさんの絵があるという風に思いながらボーッと眺めてしまいました。そしてテクストを読むとその思惟がほぼ証明されたかのような文章。橋本が非常に楽しみになって参りました。

ちなみに存在としての志向性は真逆なような気もするのですが、僕はブラックの描く鳥がとても好きで、自分の部屋のPCラックの上からポスターの中のブラックの鳥がずっとこっちを見ています。
2006/03/23(木) 00:27:15 | URL | m-louis #Fos2lKYE[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
Secret: 管理者にだけ表示を許可する
 
Trackback
この記事のトラックバックURL
≪この記事へのトラックバック≫
N的画譚の neonさん、ちはろぐのちはるさんと京阪沿線・京都のはずれは八幡市にある橋本を散策した。橋本は元々は遊郭と...
2006/03/29(水) 15:49:16 | 谷中M類栖
Designed by aykm.