
根津での暮らしも5年が経とうとしている。
昨年両親が亡くなり、私が生まれ育った本牧の家も既に無く、私にとっての実質的なふるさとは消滅してしまったのだが、何処かへ出かけてこの根津の町に帰ってくると、何だかほっとする。
私のなかではもうこの町がふるさとになってきているのかもしれない。
そして、死ぬまでずっとこの町にいたいと思っている。
顔見知りも随分増えた。
根津は小さな個人商店も多いのだが、皆構えは小さくとも皆矜持を持ってやっている。決してお高くとまっているわけではなく、皆気さくで落語が好きそうな(落語に登場しそうな人もいる)感じ、とでも言うか。そこがとても好いところである。
その中でも私が大好きな人びとがいて、「鳥勝」のご夫婦がそれ。
「鳥勝」は嘗て根津の象徴でもあった、例の「曙ハウス」のはす向かいとも言える場所にあって、お話を聞かせて貰ったこともある、鶏肉専門店である。ご主人は何処ぞの有名店で修行したらしいが、いたって気さくな人柄でいつも焼き鳥を焼いている。これがまたとても美味しい。奥さんは出過ぎない、やさしいあったかい人で、いかにもおふたり下町のおしどり夫婦という感じ。
ところが最近焼き鳥コーナーが無人になっていて、ご主人の姿がずっと見えなかった。心配だったが、ついこの間、また復活していて、心配してたんですよと言ったら案の定ご主人がひと月入院されていたのだそうだ。まだそうお年でもなく、働き盛りという感じなのに。原因がわからず数値がよくなったので、帰ってきちゃったよーとご主人が笑う。うれしくなって焼き鳥を色々買い、「またよろしくね~」の奥さんの声を背中に、ほっとしていたのも束の間、ほんの一週間足らずでまた焼き鳥ケースが空になっており、「検査入院のためしばらく焼き鳥お休みします」の張り紙が。奥さんひとりで精肉のほうだけを商っていた。
「また具合悪くなっちゃったのよ。別に無理したわけでもないんだけどねえ。原因がわからないんだもの、どうしたらいいのかこっちだってどうしようもないのよ。」「お父さんいないと私だけじゃ何にもできないのよ」・・・・・。
奥さんひとりで看護もお店もではどんなにか大変だろう。原因不明というのもどんなにか焦れることだろう。胸が痛くなるほどよくわかる。
権威あるT大病院の先生方、一刻も早くご主人の病気を解明して、最高の治療をして治してあげて下さい。そして早くまた元気にお店で焼き鳥を焼けるように、奥さんの顔からくぐもりを払ってあげて下さい。お願いします。
画は久しぶりに在りし日の曙ハウス。鳥勝さんからは、多分こんなふうに見えていただろう。
*蛇足のお願い:もしこの辺りを通ることがあっても、この記事のことは黙って居て下さいね。
neonと言ってもわかりませんし、ただ単に陰ながら祈っているだけですから。。。
そしてもし焼き鳥が復活していたら、その時は是非是非ご賞味下さい!旨いのよ~。
≪この記事へのコメント≫
>「全然フリーハンドな線」・・・(笑)その通りです~。昔はかなりビシッとした線に憧れていましたが、最近はトシのせいか手元が震え・・・(いやいやじょーだん)。
写真のような画ってのは、自分はあんまり興味ないですね。作業になってしまいますから。やっぱり自分らしいものがないと。
写真のような画ってのは、自分はあんまり興味ないですね。作業になってしまいますから。やっぱり自分らしいものがないと。
こんばんは。
この、ビシッとしていそうで全然フリーハンドな線が、堪らなく良いです。
わざわざ手描きするのですもの、写真みたいな表現になったらつまらないですよねぇ。
この、ビシッとしていそうで全然フリーハンドな線が、堪らなく良いです。
わざわざ手描きするのですもの、写真みたいな表現になったらつまらないですよねぇ。
>ご無沙汰です。今日はこちらは真夏の暑さでした。。。
あ~もうそんなに大阪に馴染んでいらっしゃるのですね。確かに「町のエキス」みたいのはあるような気がします。こういう夏初めの宵に、この辺りの路地を歩いたりすると、本当に身体のなかに風が通るような気持ちになりますから。この町に来て好かったな~としみじみ思うのですよ。曙ハウスは無くなっても。。。やっぱり新興住宅地ではそうは行かないだろうと思ってしまいます。
あ~もうそんなに大阪に馴染んでいらっしゃるのですね。確かに「町のエキス」みたいのはあるような気がします。こういう夏初めの宵に、この辺りの路地を歩いたりすると、本当に身体のなかに風が通るような気持ちになりますから。この町に来て好かったな~としみじみ思うのですよ。曙ハウスは無くなっても。。。やっぱり新興住宅地ではそうは行かないだろうと思ってしまいます。
「鳥勝さんからは」の視点で描かれた曙ハウスというところが何とも泣けます。
しかし、この話を読んでいて、自分のふるさとはもう大阪の天満界隈かもな~と思いました。
実家が根津のお隣の谷中にあるのに(汗)
たぶん実際に住んでいて、何とはなしにゆっくりのんびり時間が無為に過ぎることによって身体化していく町のエキスみたいなものってのはあるのかもしれませんね(新興住宅地でどうかは住んだことないのでよくわからないですが)。
しかし、この話を読んでいて、自分のふるさとはもう大阪の天満界隈かもな~と思いました。
実家が根津のお隣の谷中にあるのに(汗)
たぶん実際に住んでいて、何とはなしにゆっくりのんびり時間が無為に過ぎることによって身体化していく町のエキスみたいなものってのはあるのかもしれませんね(新興住宅地でどうかは住んだことないのでよくわからないですが)。
2008/07/12(土) 02:20:09 | URL | m-louis #Fos2lKYE[ 編集]
>いえ、写真の迫力には敵わないところもあります。ただ、復元したり主観で変えてみたりは自在なところがいいですね。拙ブログ内検索で「曙ハウス」を探しますと、他にも幾つか画が出てきますので、よろしければお暇なときご高覧下さい。
こんにちは。
写真では表現しにくい、素敵な色合いですね。
曙ハウス、いつか訪ねようと思っているうちに解体されてしまい、ついに実物を目にすることができませんでしたが、こうして往時の姿を拝見でき、とても嬉しいです。
写真では表現しにくい、素敵な色合いですね。
曙ハウス、いつか訪ねようと思っているうちに解体されてしまい、ついに実物を目にすることができませんでしたが、こうして往時の姿を拝見でき、とても嬉しいです。
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