
或る日の事でございます。
蒸し暑い暮れ方に、私の粗末な部屋の扉を叩いた者がおりました。
扉を開けてみると、そこには見知らぬ白い鬚の痩せた老人が立っていました。
「アナタは陋巷を描いている絵描きだと聞いたが、一枚雨の陋巷を描いて貰えんじゃろうか」
「わかりました・・・」
しかし、簡単に引き受けたものの、一体何処の町をどう描いたらよいか・・・
筆は進まず、私はふらふらと足の向くままあちこちを徘徊し、疲れ果てて気づいてみると、
あたりは薄暗く今にも雨の降り出しそうな気配。ああもう立ち去らなければ、
・・・と、忽然と私の眼の前に、低い軒の翳った建物が現れたのです。
よく見ればぞっとするほどに荒れ果て、屋根も抜け落ちて、草木が内部まで浸食し、それでもてらてらと錆びたトタンの壁ばかりが光り、そして異様なまでの静けさが漂っているのです。
その、暗さの極みのような建物に、何故か心打たれ澄む想いになった私は
必死で素描を始め、何とか描き終えた頃には辺りはとっぷりと暮れ、ぽつぽつと細い雨が降り出しました。
そのあとどうやって家に帰り着いたのか、おかしなことにほとんど記憶がないのです。
ですが部屋に戻った私はその素描をもとに、老人の所望する雨の画を描きあげたのでした。
しかしその後、いくら待っても老人は現れなかったのです。
私の手元には、渡せないままの何処ぞの場末の、あの雨の画が今でもずっと残してあるのです。
(物語はふぃくしょんです。たは~*)
(帰った記憶がないのは、帰りに飲んだくれたからだとか、老人が来ないのは死んじゃったんでしょとかそういうツッコミは、・・・あ、入れてもいいすよ~)
≪この記事へのコメント≫
>ありがとうございます。
いやいや、おはなしというのは難しいですね。お恥ずかしいです。
いやいや、おはなしというのは難しいですね。お恥ずかしいです。
>・・・そうして中へはいってみると老人が「これを開けてみなされ」と何やら古い箱を。。。開けるとたちまち老人はイケメンの王子様になり、陋屋は御殿となって、私たちは幸せにくらし・・・なんてこたあ、アリマセン(笑)!
雨の具合がいいですね。
ふぃくしょんも、なかなか、引き込まれるモノがありましたよ。
ふぃくしょんも、なかなか、引き込まれるモノがありましたよ。
2008/09/09(火) 14:46:47 | URL | うすひき屋 #0x/fFm0k[ 編集]
まぁ、
素描を終えたころ、トタンの家の奥から
「雨で濡れてしまったでしょう、少し休んでゆきなさい」と、
その老人が現れるのかと思いました(^^;
素描を終えたころ、トタンの家の奥から
「雨で濡れてしまったでしょう、少し休んでゆきなさい」と、
その老人が現れるのかと思いました(^^;
>はあ、そういうもんですかね。雨は写らないもんなんですか。。。
石内都さんが橋本を撮られた一枚に、雨のものがありましたよ。結構好きな作品ですが。
まあ普通はね~雨の時は建物撮りには行きたくないでしょう。でも雨の上がった直後なんかに、さっと陽が射したりすると好いですよね~。
石内都さんが橋本を撮られた一枚に、雨のものがありましたよ。結構好きな作品ですが。
まあ普通はね~雨の時は建物撮りには行きたくないでしょう。でも雨の上がった直後なんかに、さっと陽が射したりすると好いですよね~。
>どうもありがとうございます~。ちょっとありがちな物語風ですが。。。つげさんはもっと深いですね。
あ~でも地方はそのまま放置されたりして、私にしたら時間の流れ方がゆっくりで、自然に帰るような感じが好いとも思うのですよ。都会はすぐに別物のピカピカ物件になってしまいますから、逆に何だか虚無感を感じて目眩がしますよ。。。
あ~でも地方はそのまま放置されたりして、私にしたら時間の流れ方がゆっくりで、自然に帰るような感じが好いとも思うのですよ。都会はすぐに別物のピカピカ物件になってしまいますから、逆に何だか虚無感を感じて目眩がしますよ。。。
>ふぃくしょんですが、私は何処かフィクションの世界に生きているようなところもありまして、と言いますか、こういう建物って再訪してみると跡形もなかったりしますから、そうなると自分が夢で見たのか?とか訳解らなくなることもありますでしょう。あ、写真の方はそんなことは無いのかな。
お近くにこんなのがあるとは、凄いです。。
そりゃ通いますね、何度でも。
お近くにこんなのがあるとは、凄いです。。
そりゃ通いますね、何度でも。
>Ramblerさんはね~きっと反応して下さるかな~と思っていたんですよ。
実はこれ、ほんとーは、此処だけの話ですが(此処だけになってないか)都内某所にあったんですよ・・・あ、いや~やっぱり幻だっったかもしれませんが~。
実はこれ、ほんとーは、此処だけの話ですが(此処だけになってないか)都内某所にあったんですよ・・・あ、いや~やっぱり幻だっったかもしれませんが~。
>う~んそう来ましたか~。
わたしゃ鎮魂画を頼まれたわけじゃ~ないんで~まだもうちょっと~生かしといて下され~~。
わたしゃ鎮魂画を頼まれたわけじゃ~ないんで~まだもうちょっと~生かしといて下され~~。
>雨の匂いってありますね。
こういう画には空気感が出せればといつも思うのですが、湿った匂いや音を感じて下されば・・・描き手としてはウレシイです。
こういう画には空気感が出せればといつも思うのですが、湿った匂いや音を感じて下されば・・・描き手としてはウレシイです。
写真の場合だと
建物全体を画面に入れると殆ど雨は判らないんですよ
絵ならではですな
それに
雨が降っている時に街歩きはしたくないし・・
建物全体を画面に入れると殆ど雨は判らないんですよ
絵ならではですな
それに
雨が降っている時に街歩きはしたくないし・・
あるんだろうなぁ~と思ってよく読めば・・・。
つげ漫画の世界みたいな話ですね~。
強い存在感の建物に差してある青とさび色、そして黒の深さに凄みを感じました。
最近、田舎のほうにいくとこのような建物が多くなってきているのですが
すぐに何かでも建つ都会の建物とは違い行く末が見えなくて切なくなります。
つげ漫画の世界みたいな話ですね~。
強い存在感の建物に差してある青とさび色、そして黒の深さに凄みを感じました。
最近、田舎のほうにいくとこのような建物が多くなってきているのですが
すぐに何かでも建つ都会の建物とは違い行く末が見えなくて切なくなります。
2008/09/08(月) 00:19:10 | URL | korotyan #goYWM3Ro[ 編集]
ちょっとneonさん、そんな簡単に引き受けちゃって!…と思ったら(笑)
でもすごいですね…
心に迫るというか、ハッとしたものを感じる画です。
正面にうっすら塗られた薄い青が印象的です。
これに似た風景の街が私の住むところの
近郊にあって、3回も通ってしまいました。
でもすごいですね…
心に迫るというか、ハッとしたものを感じる画です。
正面にうっすら塗られた薄い青が印象的です。
これに似た風景の街が私の住むところの
近郊にあって、3回も通ってしまいました。
2008/09/07(日) 23:57:34 | URL | Nobu #mQop/nM.[ 編集]
心にしみる1枚です。というのも、僕が街歩きをつづけているのは、今も東京のどこかにこんな情景が残っているのではないかと思っているからなのです。
「・・・・貴方にひとつ、鎮魂歌を書いて欲しいのですじゃ。」
そう依頼してきたのは・・・・・?
モーツアルト??
怖いですじゃ・・ぶるぶるっ!!
そう依頼してきたのは・・・・・?
モーツアルト??
怖いですじゃ・・ぶるぶるっ!!
雨の音、聴こえますね。
トタンにぶつかる雨の音。
雨のにおい。
トタンにぶつかる雨の音。
雨のにおい。
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