
東京に住む前に、10年間茨城県のつくば市に暮らしていたことがある。いわゆる学園都市から少し逸れたところに、Nという地区があり、偶々そこを通りがかった時、時代が逆行したような風景に出くわした。
木造平屋の長屋タイプの住居がずらりと並んでいたのである。聞けば戦前の建物だという。どうやら軍関係の官営住宅だったらしい。ほとんどが平屋だが、なかには2階建てもある。相当に傷んでもいたが、まだまだ住まわれている方は多いようだった。
つくば市に住んだ10年間で、つくばの町を描いたことは一度もない。いきなり林を切り開いて造りあげたひらがな表記の「学園都市」には、とうとうひかれることがなく終わった。だがこの隣町のN地区だけは、描いてみたく思った。
作品はM20号(727×500)。2003年の個展に出した作。実際の風景とはかなりかけ離れてはいるが、自分なりに形を練ってみた作。もうあの町ももしかしたら無くなっているかもしれない。どの家にも傘付きの排気筒があって、歩いているとなかなか愉しい気分にもさせてくれた。この画は、やや廃味?を出しているけれど。