
散歩者のうろうろと歩いてゐる
十八世紀頃の物さびしい裏街の通りがあるではないか
青や緑や赤やの旗がびらびらして
むかしの出窓に鉄葉(ぶりき)の帽子が飾つてある。
どうしてこんな情感のふかい市街があるのだらう
日時計の時刻はとまり
どこに買い物をする店や市場もありはしない。
古い砲弾の砕片(かけ)などが掘り出されて
それが要塞区域の砂の中でまっくろに錆ついてゐたではないか
どうすれば好いのか知らない
かうして人間どもの生活する 荒寥の地方ばかりを歩いてゐよう。
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-------- 萩原朔太郎 「荒寥地方」より抜粋
(本文と画はあまり関係はアリマセン)。。。